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幻のたまねぎ吉見早生の復活 田尻町産業振興課

2023.5.1

幻のたまねぎといわれる、吉見早生。この吉見早生は、30年以上前に一度は途絶えていました。そんな幻のたまねぎが、どのようにして復活を遂げたのか。その謎を追って、編集部は田尻町役場を訪ねました。

田尻町産業振興課
岡井さん

吉見早生の生産者とともに

ー岡井さんの普段のお仕事と吉見早生のかかわりについて教えてください。
役場としての吉見早生へのかかわり方は、吉見早生のブランディングがメインです。町内外に向けて、様々な方法で吉見早生の情報を発信しています。地域のお祭りに出店したり、ふるさと納税の返礼品の出品、加工品の開発などに取り組んでいます。
あとは収穫のお手伝いもしながら、地元の農家さんと密に連携を取っています。吉見早生の栽培は、田尻町の農業委員で構成されている『たまねぎ発祥の地協議会』がおこなっているんですが、人数もそれ程多くありません。ですから、作付けや収穫といった人手の要る作業は、役場の職員も参加して一緒におこなっています。


ー情報の発信などだけでなく、実際の農作業にもご参加されているのですね。町としてそれだけ力を入れておられるのは、どのような理由からなのでしょうか。
1つは町おこしのためです。タマネギ栽培の発祥の町としての自負もありますので、そういった情報を町内外に向けて発信していく事は、意義のある事ですし、それが町おこしに繋がれば良いなと。
もう1つは、農業の振興をする担当課としての責任です。たまねぎ農家さんたちが、農業を安定的に継続していける環境を作る。たまねぎを栽培して、それを色々な販路で販売したり、あるいは加工品をつくったり。そういった事でうまく経営が成り立つようにする役目が、我々にはあると思っています。
ー継続する、未来へと繋いでいく事はとても大事ですね。

一度は途絶えた吉見早生

ーしかしこの吉見早生は、一度途は絶えていたとお聞きしました。
はい。1980年代、昭和の終わり頃に一度市場から消え、それ故にまぼろしのたまねぎとも言われています。日本でたまねぎの栽培が始まったのは、明治頃のお話です。
明治15年か16年頃から田尻町でも玉葱が栽培されるようになり、改良して現在の『吉見早生』のような玉葱になりました。吉見早生は水分量が多く、甘みが強いのが特徴です。

ー実は私も食べた事がありますが、とても甘くて美味しいですね。それがなぜ途絶える事になったのでしょうか。
たしかに味の面では非常に優れていて、往時は海外に輸出される程でしたが、いかんせん加工した際の歩留まりが悪いのです。それに水分量が多いという事は、傷みやすいといった側面もあります。さらにこの吉見早生の特徴的な扁平な形状です。上下を切り落とすと、可食部分が球形のたまねぎに比べて少ないんですね。
そういった諸々の事情があって、ある時から農協が出荷を停止したのです。これが昭和62年、つまり1987年です。当時はまだECサイトや直売所など、農協以外の販路というのはほとんどありませんでしたから、農家も吉見早生を作るのをやめました。そして一般的な球形のたまねぎを作るようになったのです。

吉見早生の復活

ー販路がなくなれば栽培をやめるのもやむを得ない話ですね。しかしそれが近年奇跡的に復活したわけです。
実は市場から消えた後も数年間は、とある農家さんが自家用として栽培を続けられていました。しかしそれもしなくなって、最後に作った種を缶に入れて床下に保存していたのです。
それがある時、我々役場と農業委員会の会長さんで黄たまねぎを使ったイベントをしたいという話をしていたところ、その農家さんから吉見早生の種を持っていると教えていただいたんです。
これを現在の大阪府環境農林水産総合研究所『食とみどりの総合技術センター』に持ち込み、発芽試験をおこなったところ成功しました。


ー約20年眠っていた種が、見事に発芽したのですね。
良い発芽率でした。ちなみに、床下から見つかった3缶で発芽試験をし、その後は冷蔵庫で保管していたのですが、翌年別の缶で栽培しようとしたところ、うまく発芽しませんでした。
つまり、床下の気候が種に合っていたのです。結果的に本当に途絶えてしまっていた可能性もあったわけです。まさに奇跡的な復活を遂げたまぼろしのたまねぎです。

ーしかし色々な理由があって一度は農協が出荷を停止した吉見早生、その時はイベントでの使用が前提とはいえ、再び栽培する事に反対意見もあったのではないですか?
はい。しかし農業委員会の会長さんがやろうと決断してくれたおかけで、日の目を見る事が出来ました。そのイベントではもう1種類、今井早生というたまねぎも出す事にしました。これは貝塚にある種苗店から種を仕入れました。

ーイベントの成果はいかがでしたか?
今井早生は少し残りましたが、吉見早生は完売しました。今井早生と吉見早生の比較調査もしてみたんですが、吉見早生の糖度が10に対して今井早生は7.6位で、圧倒的に吉見早生が高いのです。他の品種と比べても、やはり吉見早生の糖度が高く、現代人の好みに合うようで好評をいただいています。

吉見早生の味を引き出すには

ーそんな吉見早生のおすすめの調理法は何でしょうか。
輪切りにして両面焼いて食べるのが一番ですかね。変わったところでは、田尻焼とも言いますが、お好み焼きのきゃべつを吉見早生に置き換えて作るのも美味しいですよ。ネギ焼みたいな感じになりますね。ちなみに水分量が多いので、シチューなどに入れると溶けるので気を付けてくださいね。

ーそれはぜひ食べてみたいですが、吉見早生はどちらで購入できるのでしょうか。
泉州黄たまねぎ祭というのを毎年田尻町で開催しているので、そちらで販売しています。あとはふるさと納税の返礼品としても提供しています。たまにですが直売所の方でも販売される事があります。加工品は観光協会の事務所でも販売しています。


ーピクルスは食べた事がありますが、瑞々しくてとても美味しかったです。お子さんでも食べられるような感じでした。


田尻町はマンホールにもたまねぎが描かれてあったりして、町を挙げてたまねぎをPRしていますが、たまねぎ以外だとどんな名産物がありますか。


やっぱり1番多く出荷されているのは青ネギですね。次に水なす。夏場のメインはお米で、冬場にたまねぎやカリフラワーです。きゃべつも田尻町の名産ですね。



ーなるほど、たまねぎはもちろん、その他の農産物も豊富な田尻町、ぜひ多くの方に訪れていただきたいですね。本日はありがとうございました。

執筆者名

編集部

うまい!泉州編集部

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