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水なすは家族 三浦農園 深見麻衣

2022.11.21

大阪府の南部に位置する泉州地域。古くから大阪の食の台所とも言われています。昔は玉ねぎを出荷するために「玉ねぎ列車」が走るほど、泉州は玉ねぎの名産地でもありました。しかし現在ではブランド野菜として全国的にも有名な、「泉州水なす」の栽培が盛んです。 泉州水なすは、卵型の形状と、したたるような瑞々しさが特徴です。そんな泉州水なすを中心に、伝統野菜の栽培にも取り組まれている、三浦農園の深見麻衣さんにお話をお伺いしました。

三浦農園 広報担当、野菜ソムリエ
深見麻衣

江戸時代から続く家族経営農家

―三浦農園は江戸時代から100年以上、家族で農業を続けていらっしゃるとの事ですが、ご先祖様が農業を始められた当時の経緯などは伝わっているのでしょうか。
江戸時代から、というのは実は文献などで残っているわけではなくて、農具からわかったことなんです。
私は三浦家の長女として生まれたので、子供の頃から畑や農具の倉庫には出入りしていたんですが、倉庫の片隅にずっと使われていない古い大きな鍬(くわ)があるのが気になっていました。ある時この鍬を専門的に調べてもらうと、江戸時代頃のものである事がわかりました。
鍬などの農具は、昔から変わっていないように見えて実は時代ごとに少しずつ進化しているんです。現在の物は江戸時代の物に比べると小ぶりで、軽量化されています。
なので少なくとも江戸時代には農業を営んでいたというわけで、実際にはそれよりもっと以前から農業をしていたのだと思います。

―江戸時代のものが残っていたんですね。
昔の物は本当に丈夫で、柄の部分はもちろん壊れて付け替えたりはしていたんですが、金具の部分は当時の物が残っていたんです。私の子供の頃は既に使われてはいなかったんですが、ずっと捨てずに置いてあったようです。

祖父の「好き」から始まった水なすづくり

―水なすの栽培は50年程前に始められたそうですが、それまではどういった作物が中心だったのでしょうか。
当時は里芋、ふき、たまねぎなどが盛んに栽培されていたようです。
しかし元々この辺りでは、水なすは色々な農家であぜ道の近くなどで片手間的に栽培されていて、農作業の合間の水分補給として食していました。

―農産物として出荷するのではなく、自家用栽培が中心だったんですね。
はい、当時はほとんど市場には流通していませんでした。水なすは皮が薄く傷みやすいため、流通に乗せるのが難しかったという事が大きいです。
しかし祖父が水なすが好きで、これを農産物として栽培したいと一念発起して、三浦農園での本格的な栽培が始まったと聞いています。

―お祖父様の「好き」から始まったのですね。とはいえ、なかなか大きな決断だったのではないでしょうか。
うちは「何かをやりたい!」と誰かが言った時に、みんなが協力する家風みたいなものが昔からあって、その時も「ええやん!」という事で水なす栽培を始めたようです。
それが現在では「泉州水なす」というブランドも定着して、うちの出荷量でも9割以上を占めるまでになりました。

―勢いのある決断ですが、結果的には三浦農園にとっても、泉州にとっても良い方向に動いたのですね。
そうですね。50年前と言えば日本経済も非常に活気のあった時期ですし、新しい事を始める勢いみたいなものが時代背景的にもあったのかも知れません。
この辺りで水なす栽培をしている農家も、うちと同じく私の祖父の代辺りで始めたところが多いです。

―泉州水なすの栽培は難しいのでしょうか。

一般的に難しいと言われています。水なすの特徴として、皮が薄いため傷などが付きやすいという事が挙げられます。さらにうちの農園のこだわりとしては、農薬も出来る限り減らして栽培しています。

―たしかに近年は「食の安全」に対する意識も高まり、消費者も農薬の少ないものを求める傾向がありますね。
はい、ただうちの場合はもっと身近なところが出発点になっています。私の子供たちは、毎日畑に遊びに来るんですが、子供たちが水なすにかぶりついたりするのを目の前で見ていると、やはり農薬は出来るだけ減らして作りたいなと思いますね。

あとはうちの水なすは畝(うね)を高くするような形で栽培しているんですが、これは長年色々な方法を試した結果としてこうなっています。これはうちの土壌に最適な方法として行きついたものなので、他の水なす農家さんではそれぞれ異なる育て方をしています。

―たとえ同じ地域の農家でも、それぞれの土壌のわずかな違いなどによって、栽培方法も変わるということなのですね。
そうですね、わかりやすいところだと、海にどれだけ近いかによっても、土の性質は変わってきます。

「気になる」から始まった黄たまねぎづくり

―水なす以外にもなにわの伝統野菜の栽培にも取り組まれておられますね。
伝統野菜というものはなんとなく知っていたんですが、ある時その中の泉州黄たまねぎというのが気になり出しまして。それであまりにも気になって気になって、なんとか種苗会社から取り寄せて育ててみたんです。そして出来上がったものを生でかじってみると、口に入れた瞬間あまりの甘さと、玉ねぎの原点のような美味しさの主張に驚きました。ところが遅れて驚くほどの辛さがやってくるんです。

泉州黄たまねぎ

―今の一般的な玉ねぎは辛みが抑えられていますよね。
あの辛さは衝撃でした。でもその辛みは加熱するとすっかり消えて、めちゃくちゃ甘いんですよ。香りも3倍増しぐらいになるんです。これはすごい玉ねぎを見付けたぞと。
昔の品種なので気候も違ったりでかなり作りにくいものではあったんですが、この美味しさをぜひみんなに知ってほしいという思いから、農産物としての栽培を決めました。


―水なすはお祖父様の「好き」から、黄たまねぎは深見さんの「気になる」から、というのがなんだか面白いですね。
他にも結構変わっている事があって、うちでは野菜を自分たちの子供や家族のように扱うんです。例えば冬にビニールハウスの扉を開け閉めする時に、「風邪ひくから早く閉めて」とか(笑)水なすの選別作業の時も、「こんなに傷が付いてかわいそうに」とあちこちで声をかけていますね。
―植物は人間の感情や音楽を理解できるという説もあるぐらいなので、そういった精神も大事なのかもしれませんね。

三浦家オススメの水なすの食べ方

―三浦農園の水なすをぜひ食べてみたくなってきました。
一番いいのはうちのオンラインショップです。これはなぜかと言いますと、鮮度の問題なんです。通常の販路で一部の店舗などにも並んではいるんですが、出荷した後は店頭に並んでいるものがいつ採れたものか、私たちでもわからなくなります。しかしオンラインショップであれば、朝収穫したばかりの物が1-2日程度でご自宅に届きます。鮮度の良いものをぜひ生で召し上がってみてください。

―ホームページにも深見さん監修のレシピがいくつか公開されていますが、三浦家イチオシの食べ方はありますでしょうか。
くし切りにして、塩、黒胡椒、オリーブオイルを付けて食べるのがオススメです。これらはご自宅にあるものを使っていただいてもいいんですが、「ええ塩」を使うとさらに美味しさが引き立ちますよ。

―それはぜひ試してみたいですね。 三浦農園ではオンラインショップだけでなく、IoTといった先進的な取り組みも積極的にされているようですね。
IT方面はすべて弟(※代表 三浦淳氏)が中心となって進めています。元々IoTは徐々に進めていくつもりではあったんですが、ある時台風ですべてのビニールハウスが被害を受けてしまったんです。もちろん甚大な被害だったんですが、それならもうこの機会に全部最新の技術を導入してやろうと。 ―不屈の精神といいますか、ここでもやろうと決めた事にはみんなで協力する三浦家の家風が生きていますね。 そうですね、この時も一時的な支出は大きくなるけど、その方が前向きに立て直せるからいいよねと、一気にIoTを推し進めることになりました。


深見麻衣さんは、近隣の学校などで特別授業や収穫体験を積極的におこなっています。 これは「農業も職業の選択肢の1つとして知ってほしい」という強い思いがあってのことだといいます。毎年「なりたい職業ランキング」といったものがニュースを賑わせますが、知らない職業はそもそも選択肢にもなりえません。だからまず「農業」というものを知ってほしい。そんな思いから深見さんは、忙しい農業の合間を縫って教壇に立ち続けます。




執筆者名

編集部

ヒロキマスダ

モデルを入れた観光サイト案件(企画•取材•執筆•サイト制作含む)を中心に、フォトコン企画などフォトグラファーとして写真を用いた地方創生事業を、複数の地域で手掛る。フォトメディアを2サイト運営。

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